理想の木材保存剤・・・ホウ酸塩
木造住宅の寿命を延ばすには、木材を腐朽菌、食材甲虫(キクイムシ)、シロアリ等から守る必要があります。ヒトやペットに安全で、昆虫や微生物に高い毒性を持つホウ酸塩は理想的な木材保存剤です。
ホウ酸塩はホウ素と酸素を含む無機物ですが、自然界には、海水、淡水、土壌などどこにでも存在します。動物も植物もホウ素なしでは生きられません。人間が健康な生活を続けるには1日あたり1〜3mgのホウ素が必要です。ホウ素不足を防ぐためのサプリメントも販売されています(写真1)。
ホウ酸塩は、砂漠で採掘される鉱物を精製したものです。
無色無臭で接合金具を錆びさせない利点もあり、海外では木造住宅の耐久性向上の目的で広く使用されています。日本でも一昔前までは目の消毒薬などとして使われていました。
木材劣化生物を寄せ付けないホウ酸
木材劣化生物に対するホウ酸塩の毒性閾値(いきち)(ホウ酸換算)は表1のようになります。
ホウ酸塩濃度が毒性閾値に達すると、劣化生物は木材を食害できません。ホウ酸塩としては水によく溶ける八ホウ酸二ナトリウム四水和物(Na2B8O13・4H2O:Disodium
Octaborate Tetrahydrate 通称DOT)がよく使用されます。
表1から明らかなように、木材中のホウ酸塩濃度が3.0kg/m³BAE(注1)を越えるとどんな木材劣化生物も寄せ付けません。
表1 種々の木材劣化生物に対するホウ酸塩の毒性閾値(いきち)
| 木材劣化生物 |
代表例 |
毒性閾値(kg/m³ ) |
| ホウ酸換算(BAE) |
DOT |
| 腐朽菌 |
褐色腐朽菌、白色腐朽菌
ナミダタケ |
1.0 |
0.8 |
| 食材甲虫 |
ヒラタキクイムシ
シバンムシ |
1.2
(日本農林規格) |
1.0 |
| カンザイシロアリ |
ダイコクシロアリ
アメリカカンザイシロアリ |
1.0〜1.5 |
0.8〜1.2 |
| 地下シロアリ |
ヤマトシロアリ
イエシロアリ |
3.0 |
2.5 |
注1)BAE : Boric Acid Equivalent ホウ酸(H3BO3)換算濃度。DOT 濃度の約1.2倍。
ホウ酸塩か合成殺虫剤か?
建築基準法施行令は、木造住宅を新築する場合、地面から1メートル以内の構造材を防腐・防蟻処理するよう規定しています。写真2のオレンジ色の柱は防腐防蟻処理した証拠です。
現在日本で認定されている防蟻処理剤は、ほとんどが合成殺虫剤です。合成殺虫剤は農薬として開発されたもので、害虫を殺したら素早く分解しないと残留農薬問題を起こします。このため、農薬系防蟻処理剤の効果は5年で消滅します。5年ごとに壁を開き壁内部の木材を再処理する必要がありますが、費用も高く、居住者には煩わしいので、現実的ではありません。この結果、外壁内部の構造材は、築後5年でシロアリに対して無防備になります。
※農薬系合成殺虫剤は効果が持続しません。
安全で防腐・防蟻効果が半永久的に持続するホウ酸塩
米国およびオーストラリアは、シロアリ被害の多い先進国ですが、農薬を使用するシロアリ防除処理では、居住環境が殺虫剤に汚染されないよう細心の注意が払われます。住宅木部に予防のため合成殺虫剤を塗布する日本方式は禁止され、土壌処理だけが許されています。また、西オーストラリアの行政は、「妊娠中の婦人や乳飲み子のいる家庭では、シロアリ防除施工は可能なかぎりしないように」と指導しています。
※農薬系合成殺虫剤は安全性に不安があります。
ホウ酸塩は、米国環境保護局(EPA)が認定している数少ない木部処理用シロアリ防除剤です。安全で防腐・防蟻効果が半永久的に持続するホウ酸塩は、幼児や妊婦のおられるご家庭でも安心して使用できます。
人に安全なホウ酸塩がなぜシロアリや腐朽菌に効くのか?
生体内にホウ酸塩が過剰になると、ホウ酸塩は生体内の糖アルコールを含む補酵素と反応してしまいます。こうなると生物は食物をエネルギーに変換できなくなり飢え死にしてしまいます。この代謝阻害は根源的な作用なので生物がホウ酸塩に対して耐性を獲得することもありません。昆虫や木材腐朽菌など下等生物は過剰なホウ酸塩を排出することが出来ませんが、人や犬など哺乳類は生体内に必要な量だけを吸収し、残りは腎臓を通じて排出してしまいますので安全なのです。
ホウ酸塩の日本での法令上の取り扱いは?
製材の日本農林規格(JAS)の保存処理では、木材にホウ酸塩(薬剤記号B)を1.2kg/m³BAE以上注入すると、性能区分で最低ランクの〔K1〕になりますが、〔K2〕以上は認めていません。
日本しろあり対策協会の認定薬剤にも入っていません。
従って、住宅性能表示制度の防腐・防蟻に有効な薬剤にもK3相当以上の防腐・防蟻処理にも該当しないと思われますので、劣化対策等級3をホウ酸塩だけでクリアすることはできません。
アメリカカンザイシロアリは空から来て
屋根裏の木材の中で繁殖する!
最近はアメリカカンザイシロアリ問題が浮上しています。このシロアリは、空から住宅に侵入し、小屋組みなど住宅上部に住み着くことが多く、地上1メートル以内の処理だけでは不十分です。予防するためには住宅の屋根部分をも含む全構造材・下地材の防腐・防蟻処理が必要ですが、室内の居住環境に影響を与えるため、農薬系の薬剤を使う訳にはいきません。DOTをこまめに現場の進行状況ににあわせて散布してあげれば良いのですが、実際はなかなか難しいと思います。
アメリカカンザイシロアリが確認されている地域
川越市、立川市、中野区、江戸川区、市川市、船橋市、木更津市、袖ケ浦市、川崎市、横浜市、横須賀市、鎌倉市、その他大阪府、三重県、和歌山県など ※順不同
有効なプレカット材のDOT浸漬(ドブ浸け)処理
現在、一番簡単で確実な方法はプレカット材のDOT浸漬(ドブ浸け)処理です。この方法は、全構造材・下地材をプレカットしてから、所定の温度・濃度のDOT水溶液に浸漬します。これを2〜3日自然乾燥してから建築現場に運んで組み立てます。これにより全部材の両面・両コバ・両木口・継ぎ手・仕口・座彫り・ボルト穴・ほぞ穴・柱欠きなどまで表面を完璧にDOT処理できます。プレカット材のDOT吸収量は、浸漬時間・温度・濃度などにより調節できますが、標準的には、表面1m²あたり30gのDOTが吸収されます。このDOTが深さ5mmまでの表層部に均一に分布する場合、平均吸収量はホウ酸換算で7.2kg/m³ BAEとなります。この吸収量は、イエシロアリを含めた全ての木材劣化生物を制御できる3kg/m³ BAE(表1)の2倍以上に相当します。
全構造材、下地材をプレカット後 ホウ酸塩溶液にドブ浸けする!
設計および施工のガイドライン
DOTは化学的に安定で、木材中に存在する限り保存効果は半永久的に持続しますが、水溶性なので雨に曝されると溶け出してしまいます。処理材は、雨に濡れないように保管してください。また、建設工事中は、まとまった雨がかからないよう配慮してください。
DOT浸漬処理ではDOT は表層部にしかついていませんので、現場でプレカット材を切断・穴あけなどした場合には、その箇所に15%のDOT水溶液を塗布してください。
またDOT未処理の補足材などを取り付ける場合にも同様に、切断後DOT水溶液を塗布してください。
基礎コンクリートにも、他の薬剤でなく人畜無害で効果の持続するDOT水溶液を散布することをおすすめ致します。
DOT粉末も当方で取り扱っておりますので、あわせてご用命下さい。
まとめ
上述のとおりホウ酸は日本の法令などではマイナーな取り扱いとなっていますが、アメリカカンザイシロアリ対策としてはこれ以上のものはありません。カンザイシロアリ蔓延地域が拡大している現状を考えますと、お施主さまのためには法令等の整備を待たずに、どんどん情報を提供し、ホウ酸塩処理木材をお奨めすることが親切であると考えます。
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NPO法人 ホウ素系木材保存剤普及協会 理事長 荒川民雄
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株式会社 ウッディーコイケ 代表取締役社長 小池文喜